(前編から続く)
確かにドイツの風土に白ワイン品種があっていたのは事実ですが、それ以前に白ワインの生産を優先する修道院や教会ならではの事情があったのです。
そんな中世ドイツにおいて栽培されていた白ワイン用ブドウの品種としてまず挙げられるのが、エルブリング(Elbling)種です。
現存する最古のブドウ品種のひとつとしても知られるエルブリンク゛種はラテン語で「ヴィティス・アルバ(Vitis Alba)=白いぶどう」と呼ばれ、その「アルバ」が「アルべン」や「エルべン」となり、「エルプリング」と変化したと言語学者は唱えています。
ともあれローマ時代からあるこの白ワイン品種が「白(Alba)」を語源とするのは間違いないようです。このワインの最大の特徴は、なんと言っても収穫量の多さです。
ドイツ語で『Schuldenzahler werden(借金返済者)』という俗称を持つエルブリング種は、その名の通り収穫量が多くブドウ畑を作るために借金をした農夫や修道院が真っ先に作ってブドウを大量生産してワインにして借金を返済するという、まさに白ワインを量産するために生まれたような品種です。
とはいえ糖度が低く酸味の多いこのブドウは、収穫量こそ多いもののアルコール度数は高くなりにくく、甘みも足りないのでまさに量産型の貧しい教会のミサや庶民が常飲するためのワイン生産のために植えられたブドウでした。
こうして最低限の需要を満たした修道院やブドウ農家が挑戦するのが、トラミナー(Traminer)種という高級ワイン用のブドウ品種です。
北イタリア・南チロル地方の「トラミン(Tramin)」という村で生まれたとされるこの品種は、酸が穏やかで糖度が高いため、出来の良い房を剪定し、できる限り収穫を遅らせて糖度を高める努力がなされる品種です。
つまり、農夫や修道士たちはブドウの房を見極める選定眼が必要であり、また寒くなってブドウが台無しになる直前まで気候を見極めるというベテランの農夫か修道士の気候に対する知見がないと価値がなくなる品種です。
糖度をギリギリまで上げて収穫したトラミナー種のブドウは高い糖度からアルコール度数の高いワインが醸造可能であり、そのスパイシーな香りと甘みは、砂糖が貴重であった時代には貴重な「甘く芳醇な飲み物」となったのです。
14世紀頃までは、ほぼ量産用のエルブリング種と、高級ワインとして仕上がるトラミナー種がドイツ地方のブドウ生産の中心となります。
しかし、14世紀ごろから文献に登場するとあるブドウ品種がドイツのワイン情勢を一変させます。
リースリング(Riesling)と呼ばれる、1435年にリュッセルスハイム市での苗木購入記録(6本の苗木)の会計明細書として文献に登場するこのブドウ品種は言ってしまえば「万能」でした。
糖度と酸味もほどよく芳醇な香りを持つリースリングは、栽培もしやすく収穫量も多いというこれまでの白ワイン用ブドウ品種の上位互換的存在でした。
早飲み用のテーブルワインから、熟成されたアルコール度の高い高級ワインはおろか、スパークリングワインまで、土壌や栽培や醸造法によって千変万化の味覚を演出できるリースリングは、まさに白ワイン用ブドウ品種の完成形とも言うべき品種です。
現在でもドイツのワイン用ブドウ品種の中心となっているリースリングは中世盛期の14世紀に姿を表すと、15世紀にはドイツのブドウ畑を席巻します。
味も多様で「カビネット(軽快な辛口・やや甘口)」、「シュペートレーゼ(遅摘みで凝縮感やボリュームが増す)」、「アウスレーゼ(完熟した選抜ブドウ)」、「ベーレンアウスレーゼ(完熟したブドウを腐る寸前まで見極めて一粒ずつ選り分けたブドウ)」、「トロッケンベーレンアウスレーゼ(水分がなくなるまで放置して貴腐カビが沸くのを待つ貴腐ワイン)、アイスワイン(凍結したブドウを収穫したワイン)など、さまざまな「より厳選されたワインの品種という文化」を生み出すのに至ります。
ドイツの白ワイン文化はリースリング種の登場によって一つの完成を見せたと言っても過言ではありません。
同じリースリングでも、同じ葡萄棚の畑でも、細かく農家や修道院に分割され、それぞれがそれぞれの流儀によってブドウを栽培し醸造し、多種多様な白ワインを生産するドイツの白ワイン文化がこうして生まれたのです。
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