まんがタイムきらら 2024年6~8月号に掲載された4コマ漫画です。 中世ドイツを舞台に、主人公の少女「ニコル」たちの日々が描かれます。 ここでは前半部分を試し読みとして掲載します。続きは同人誌で!

解説 Juno
素敵な回廊と猫
光が満ちる修道院の回廊。なんとも幻想的で宗教的愉悦に満ちた絵である。修道院の回廊は「クロイスター」と呼ばれ、これはドイツ語のKloster(修道院)と語源を同じくする。この構造が修道院を修道院たらしめる、と言うか聖堂と修道士(女)の生活空間をつなぐ役割をしていた。だいたい中庭に面しており、そこからこの絵のように溢れる光が降ってくる。まさに「修道院のこもれび」である。廊下の演出には古今東西そういう空間的、概念的な隔たりとしての装置が期待される。大奥の松の廊下然り、姫路城三の丸然り。全く余談だが安土城考古博物館は展示内容が日本の城郭と織田信長とは到底思えないようなロマネスク様式の見事な外装をしており、この建物にも同様に立派な回廊が存在する。信長は日本でイエズス会宣教師の布教活動を認めた戦国武将であり、そんな彼の思想を体現した建築物がキリスト教に回帰しているのは納得の帰結であると言えるかも。通常修道院の回廊にはおいそれと立ち入れないので雰囲気を味わいたい方にはおすすめ。 猫に関しても色々小ネタがあって、いかに身近な存在であったかは言うまでもない。とりわけ中世においてはペストの元凶とされたネズミを駆逐する意味合いもあって重んじられたとする説もある一方、ベルギーの猫祭りの発祥にもみられるように「魔女の使い」として不当に処刑したような例もあるので一概には言えない。ただ一方でよく時祷書の余白に猫が落書きされていたり(和む)、度々「教会で猫飼うなよ」というお達しが出ていることからも人々の身近で愛でられていたのは間違いないだろう。写本にも実際猫はよく出てくる。鳥獣戯画にも引けを取らない絶妙なタッチの猫は商品化したらおそらく日本でもバズることだろう。
羊皮紙
筆者は一度作りたての羊皮紙を見たことがある。羊の皮が糸で木枠に縛られてピンと張られていた。その傍にあった可愛らしい羊のぬいぐるみが忘れられない。それはさておき、羊皮紙の耐用年数って千年くらいらしい。我々はなんとなく羊皮紙と言われると「昔のもの」と思い込んでいるが、なんてことはない、紙の方が遥かに耐用年数が長い。ご存知の通り五百年頃から千年前後までの史料は非常に乏しいわけだが、その欠落の一助となってしまっているのかもしれない(他にももちろんいろんな理由がある。移動王宮だったが故にアーカイブ機能を担う施設がなかったことなど)。 ちなみに某同人専門の印刷会社では特殊紙として羊皮紙を使うことができるが、あれは擬羊皮紙と言ってパルプ紙を硫酸で加工したものだそうで、もちろん本物の羊の皮ではない。千年経っても残る紙である。安心して同人誌を作って欲しい。
漫画を描くために、写本のコレクション展に出掛けたりしました。これは写本用の机で、作中でニコルが修繕中の一葉を見つける場面のモデルになりました。展示会のレポートはこちら (夕凪ショウ)
水車小屋
中世といえば水車小屋。と言うか電力のような安定した動力源を持たなかった中世以前の文明社会では何をするにも自然の力を使えば効率が良かった。水車といえば粉挽のイメージがあるが、もっと古代に遡ると石切なんかのとんでもなくしんどい業務にも水力を活用していたらしい。なんでもあったローマはもちろん、発明そのものはギリシャ時代に遡ると言うのだから凄まじい。 だがこの生活に欠かせなかった粉挽、もとい水車小屋だがそこに従事する人々はどうやら同時代の人間からは不当な扱いを受けていたようで、人里離れた場所に住むことを余儀なくされ、ギルドに加入が許されなかったり、その子弟と結婚しようとした職人は自分の所属するギルドから追放されたりとずいぶん差別的な扱いを受けていたようである。こんな闇の話はこもれびシュトラーセの世界観には似ても似つかないのだが、そんなところに嬉々として二人で来ているニコルとニナが可愛かったので一応の背景補足である。あと蛇が出るレベルの水車小屋付近の田舎道を一人で歩いていたモニカ嬢、あまりに肝が据わっているのでこの人ならギルドの一つや二つ立ち上げてしまいそうだと確信を得られるシーンでもある。
漫画本編と解説の続きは、同人誌「こもれびシュトラーセ」に掲載予定です! ゲームマーケット2025秋とコミティア154での頒布をお楽しみに♪